いまパパがすべきこととは?/映画レビュー;グラン・トリノ
会社の同僚のオススメで借りて観た「グラン・トリノ」という映画が、めちゃ刺さったので、レビューというか解説します!
こちらでは描写や結末まで言及しますが、そのストーリーの先読みと意外性よりも、なぜそうしたかを考えさせることの方が深いので、ネタバレ注意というかむしろネタバラシしたいくらいです!
※でも、映画の観方はそれぞれだと思うので、気になる方は先に観て戻ってきてください
↑予告編
レビュー総括
全体を通して感じたのは、渋いハードボイルドな男の生き方よりも、パパとしての在り方・生き方についての強いメッセージです。
パパとして後悔しないために、やるべきこと、子どもとの付き合い方について色濃く描かれており、自分のパパの立ち位置はどうかを考えさせられました。
僕自身、パパネタ・イクメンネタが好きなこともありますが、なぜそのように感じたのか、背景から紐解いていきます。
主人公ウォルトの人物像
主人公のウォルトを演じるのは、本作の監督でもあるクリント・イーストウッド。
その厳格な風貌に加え、人をバカにした攻撃的な物言いに、「気難しいじいさん」と扱われているわけです。
でも、ストーリーが進むにつれ、ただ性格が悪いじいさんというわけではないことがわかってきます。
そもそも人嫌いで意地悪な訳ではなくて、環境と理解の問題があります。
というのも、
- 冒頭から亡くなってしまっていたけれども奥さんもいて、幸せだったと言う
- 隣人のスーを黒人ヤンキーから助けた時の会話では「君はなかなかいい娘だ」と好意的な態度を示す
- BBQではオバサマ達に囲まれて「あんた達はすばらしい」と称賛しつつ楽しそうに食事する
- そして、そんな隣人の方が「身内よりも身近に感じる」と言う
- バーや理髪店には、くだらないブラックジョークを交わして笑い合える友達がいる
これらをみても、性格が悪いだけの引きこもりで孤独な老人ではないですよね。
それなのに、彼が気難しく映ってしまうのは、相続や財産目当てである親族、自分の利益のために他人を利用するような人間の利己的な態度に対する憎悪・怒りがそうさせているわけです。
そういう気持ちを察するような理解がされない、でも本人にとって理解される必要もない、そうやって生きてきたのですね、彼は。
兵役と家族
なぜそのような生き方をしてきたのかは、作中に散りばめられる朝鮮戦争のエピソードが語ります。
- 軍隊では厳しい訓練や命令が当たり前であった(のだろうと思われる)
- ミッションでは相手を子どもだろうと殺してきた
- ミッションでは相手も合わせて1人だけ生き残ってしまった
- 戦地と帰ってきてからの生活・人間のギャップ
このあたりがウォルトの人生に暗いシミを残しています。
戦争とはいえ子どもを殺しながらも、自分は子どもを育てるという矛盾。
特に思春期になった子ども(タオくらいの年齢)には、軍隊での訓練の厳しさを彷彿とさせるガンコオヤジな教育だったのでしょう、うまくコミュニケーションをとれません。
そして、恐れられ、嫌がられ、反発され、煙たがられ、疎遠になってしまった。
フォードの自動車工であった父親に対し、日本車のディーラーになった息子。おそらく「親父のようにはなりたくない」と、ひとつの当てつけだったのでしょう。
ただ、彼自身も子どもとの「付き合い方がわからなかった」と振り返り、不器用であった自分を悔いているのです。
そうやって(奥さん以外の)家族には自分のことを理解されることはなく、一族はみんな、家を始めとする財産だけが目当てになってしまいました。
2度目の子育て
こういった背景があって、やっとアジア系民族の隣人スーとタオの出番です。
タオが車を盗みにガレージに忍び込んだり、もつれて庭にまで入ってきた従兄弟連中を銃で追っ払ったり、黒人に絡まれるスーと助けたり、そういうエピソードが隣人の2人をウォルトの懐に飛び込ませます。
もともと物怖じしない性格のスーとは話のテンポが合い、孫ほど年が離れた隣人との信頼感が増していきます。
車盗難未遂の償いに、とタオに仕事をさせるように懇願したことから、ウォルトとタオとの師弟関係が始まり、やがて親子のような気持ちまで芽生えていきます。
男同士の会話を教えてやる、道具は好きなものを持っていって良い、そんなことを本当は自分の子どもに言いたかった、言いたい気持ちがあった、でも、当時はできなかった。
ウォルトはタオに自身の"2度目の子育て"をすることで、実の息子にしてやりたかったこと・してやれなかったことを成就させていくのです。
命を賭けて「守る」
子どもがいじめられたら、傷つけられたら、親としてどうするか。
ウォルトは傷つけられたタオを守るために従兄弟グループに攻撃を仕掛けます、パパとしてヒーローになるのです。ただ、この作戦は失敗。
子ども同士の小さな争いであれば良かったかもしれないけど、標的が自分に移り「子どもを傷つける」という復讐に繋がってしまうことに。
タオ達の家に銃弾を撃ち込まれ、スーは暴行され、従兄弟ギャング達は警察の調べにシラをきっている様子。そしてスーは怯えている、と神父から伝え聞きます。
一方、ウォルト自身は吐血を繰り返すなど、先が短いことがわかっている。
従兄弟連中からスーとタオを遠ざけられる最善の方法、
タオの手を血で汚さない方法、
スーの暴行も白状せざるを得ない状況に追い込む方法、
それをウォルトはひとりで考え、覚悟し、多くは語らず、身辺整理・死装束(内ポケットあり)・遺言の準備をして、丸腰で敵地へ乗り込んでいくのでした。
全てが終ったあとのタオの顔つきは、まるでウォルトのような厳格な表情になっています。
まとめ
僕たちパパは子どもに対し、何をどのように教え、伝えられているでしょうか。悔いなく、子どもを守り、生き様を伝えられているでしょうか。
確かにウォルトは不器用だったかもしれないし、限られた時間しかありませんでした。
でも、僕たちも命が有限であることは間違いなく、いつも正しいことができるとは限りません。
この映画を観て、いまパパとしてどうあるべきか、どうありたいか、何をすべきか、一度考えてみるのも良いかもしれませんね。
映画の作りとしても、神父とスーへの名前の呼ばせ方、遺言を聞くタオと親族の表情、など対比がうまく描かれていて素晴らしい。
合わせて「父親たちの星条旗」など観ると、クリント・イーストウッド監督が伝えたい戦時の人の想いや当時のアメリカの状況などの背景を垣間見れます。
あぁ、このあたりの話をつまみに酒を飲みながら語りたい!笑
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