『永い言い訳』小説レビュー;大切なものは目に見えないってことね。映像と小説の表現の違いが気になる。
映画公開された『永い言い訳』(原作・脚本・監督 西川 美和、主演 本木 雅弘)の原作小説を読んだのでレビューします。
特に、映画を観たけど小説も読もうかな、と思っている人は、ぜひ参考にしてみてください。
ちなみに僕はまだ映画を観ていません。
(ということでネタバレ注意です)
◼︎「言い訳」 とは
まず、「言い訳」の意味は、辞書にこう書いてあります。
『そうせざるをえなかった事情を説明して、了解を求めること。弁解。弁明。「遅刻の―」「いまさら―してもおそい」』
言い訳は一人じゃできないんですよね、必ず相手がいて自分がいる。
◼︎言い訳は誰にもある
幸夫は独り言のように自分に対して言い訳をし、相手に対して言い訳をする。
夏子には届かなかったけど。
こういうことって、幸夫が特別でなくて、誰しもが少なからず持っている感情なんじゃないですかね。
そういえば、いつも自分自身に言い訳を言い聞かせている。子どもがいるからできない、あの人が優しくないから傷つく、など。誰かに対する言い訳をしながら、これはこれでしょうがないんだ、と自分自身に言い聞かせながら、相手に押し付けながら、生きている節が、確かにある。#永い言い訳
幸夫は、弱いから、性格が歪んでいるから、小説家だから、コンプレックスからの承認欲求が強いから、言い訳をするわけではない、と思う。少しデフォルメされているだけであって。#永い言い訳
幸夫が泣けなかったのは、言い訳をして正当化しなければならなかったからだろう。経歴や妻 夏子への負い目から「しょうがなく」浮気をしていたんだから、幸夫的には。言い訳なんてしなくて良いことを理解したことで、初めて後悔したんじゃないかな。#永い言い訳
ふと思ったけど、自分が言い訳に支配されている状況は、社畜だとかDV家庭に通ずるものがあるのではないか。自分が悪い、相手が悪い、タイミングが悪い、育ちが悪い、日本が悪い、食っていけない、子どもを守らなければいけない、本当は相手もつらい、とか言って。#永い言い訳
幸夫って狂気を帯びた人かな、常軌を逸した考えをもつ人かな。自分で自分を騙すこと、正当化に他者を騙すことって誰にでもあって、鎧のように硬い鱗のように身につけていて、その意味を無くしたとき、つまり誰かを無くしたときに丸裸になるんだね。#永い言い訳
幸夫はきっと様々な人に言えない正当化をしたうえで、自己防衛もあって悲しむ余裕がなかったんだろうな。
では、夏子はどうか、そんなに幸夫のことを責めているのか、というと、亡くなる直前にも元彼を思い出しているなど飄々としている。幸夫の長々しい御託なんて、全くのひとりよがりであることを伺わせるし、逆にこの感じを幸夫は知らない。他者への想いなんて、そんなもんなんだ。#永い言い訳
◼︎もう愛していない
小説を最後まで読んだら、ぜひ最初の方に戻って夏子の語りを読み返してほしいです。
幸夫が激烈な言葉で夏子を責め立てるシーンがあるけど、当の夏子は飄々としたもので。
映画や小説のあらすじの書きっぷりや他の人のレビューに「冷え切った家庭」とか「冷めた愛」とか書いてあるのを目にすると、ちょっと違うんじゃないかなと思う。気まずくはあったと思うけど。
幸夫は夏子に対する負い目を感じていて、夏子は幸夫を養った自負があって。それをお互いが察し合って、疑心暗鬼になってるだけで。
"もう愛していない。ひとかけらも。"
これがまさに、幸夫と夏子の関係性に当てはめた言い訳であって、この作品を象徴する言葉であると思う。
すれ違いを、さらに後付けの理由を当てはめて、それで良しとしてしまっているようで。
◼︎言い訳は目に見えない
この作品では、失くしてから気付くっていう言い古されたことを、なぜそうなってしまうのかを痛々しく紐解いている。
自分がどう思うか、相手がどう思っているかに囚われていると、失くしてから気付くことになっちゃうよ、っていう反面教師なストーリー。
ただ、それは人間の心理的な仕組みになってるということだから、まるっと受け入れたうえで突破しましょうね、っていうことだと思う。
"他者の無いところに人生なんて存在しないんだって。人生は、他者だ。"#永い言い訳
大切な人を大切に。
言い訳や言い逃れをして、後悔する前に。#永い言い訳
◼︎映画のための原作小説
小説では、一人称で事細かく気持ちや観点や感性が語られているので、わかりやすかったけど、映画ではどうなんでしょうかね。
注目は、小説と映画では、心象描写にどのような違いがあるか。小説は登場人物がどのような人間で、どんなことを考え、どう感じているのか、一人称で事細かく語っている。
— youhei yamada SOP04 (@dj_yama_d) 2016年10月14日
西川監督は「映画のための細かな設定に小説を書いた」と言った旨の発言をしている。どう心象を描くんだろう。#永い言い訳
観た人がいれば、どのシーンがどう描かれているのか、聞いてみたくて、その事前情報あったうえで映画観にいきたいな。